【サボテン教室】 球型メセンの実生


(本記事は、旧ホームページの2004年3月19日の記事を再掲したものです。)

記事提供:奈良県 岡本治男 氏
写真提供:岩手県 赤石幸三 氏
 子供の頃、実生は園芸の基本であり、一番楽しいことであると数えられました。今は殆どの草花が苗で得られるようになりましたが、昔はパンジーやデージーなどの1~2年草は勿論、多くの宿根草や、シクラメン、グロキシニアなどの球根植物まで、自分で種を蒔いて育てたものです。
球型メセンも実生によって簡単に殖やすことが出来ます。リトープスやコノヒーツムは同じ品種でも少しづつ顔が違います。その中から自分の好みに合ったものを選び出すのも楽しいですし、また交配によって珍しいものを作り出すこともできます。
Conophytum群生株
① 種子の採取
リトープスやコノヒーツムは殆ど秋に花が咲きます。気温の高い10月頃は一週間くらいの寿命ですが、気温の低い冬に咲くギバエウム類などは一ヶ月以上も花を楽しめます。メセン類は自花受精、自家受精ともにしません。従って株が異っても一本から株分けしたもの間の受精はしませんから、必ず異った種子による苗が2本以上必要です。花は晴天の午後に開花し夕方には閉じますので、日中留守にされる方の交配は家人に頼まれるほかないでしょう。
交配は脱脂綿を細かくちぎり、ピンセットではさんで行います。雑交しない様一品種ごとに脱脂綿を取り替えることが大切です。またコノヒーツムのペルシダム系など、花が小さく蕊が花筒の中に入っているものは脱脂綿が入りませんので、細いナイロン系(釣糸など)の先を指でほぐし、花筒の中に挿し込んで行います。指でほぐすことにより静電気を生じて花粉が着き易いといわれています。
受精した緑色の果実は少しづつふくらみ円形または楕円形になります。4~5月頃完熟し褐色の乾いた状態になれば鋏で切り取ります。これをカプセル(朔果)と呼んでいます。カプセルは封筒などに入れ保存しますが、少量なら冷蔵庫に入れておきますと長持ちします。播種前に種子を取り出しますが、その方法は小皿にカプセルを入れ、40℃~50℃のお湯をそそぎます。水よりも温湯のほうがはるかによく開裂し、手でもみほぐすと容易に種子を取り出すことができます。取り出した種子は小皿の中で数回水洗いし、天日でよく乾かしてから薬包紙等で包んで保存します。
Lithops実生親株間近
(2001年11月播種・赤石軍艦旗、ハマー種子カラスモンタナ他)
②種子の形状 大きさ
カプセルの中に入っている種子の数は、品種によってかなり差があります。リトープスの場合、柴勲系、露美系などはカプセルは大きいのですが種子も大きいので、一カプセル中に平均して300粒ぐらいでしょうか。寿麗玉系、朝貢玉などは種子が小さいので1000粒近くも入っていることがあります。コノヒーツムやオフタルモもカプセルは小さいのですが種子も小さいので300粒ぐらいでしょうか。
種子の大きさも品種によって大な差があり、同じリトープスでも柴勲系のものは3000粒/gに対し、朝貢玉の19000粒/gの6倍の重さがあります。最も小さいのはデイテランタスの南蛮玉、綾耀玉の34000粒/gで、これは草花の中で小粒の種子の代表とされるグロキニシアの25000粒/gより小さいことになります。コノヒーツムでは足袋型が最も大きく、ブルゲリーはディンテランタス並の小さい種子です。
種子の形の小型のものは丸形に見えるものが多いですが、大形のものは多少扁平であったり、コブや角があったり、多少シワがあったり、先が尖っていたり様々です。色は褐色、赤褐色、暗褐色など濃色のものが主ですが、中には殆ど白に近い黄白色のものもあります。少し馴れてくると、その種子はどのグループのものか大体分かる様になります。
③ 種子の寿命
メセンの種子は殆ど春に採れますが、すぐ蒔いても(取蒔き)生えません。一定の後熟期間を必要とする仕組になっていると思います。カプセルの軟かい紅大内玉やオフタルモフィラム、コノヒーツムのブルゲリー等はその年の秋に蒔いてもよく生えますが、果皮の固い柴勲系や露美玉系はもう一年後熟させてから蒔くほうがよいと思います。私は大抵の種子の発芽可能年数は貯蔵法によっても差があると思いますが、冷蔵庫などで、冷暗庫貯蔵すれば4~5年は大丈夫と思います。
④ 実生の実際
私は毎年9月下旬に蒔くことにしています。この頃はまだ気温も高いのですが、高冷地の当地(注・奈良県榛原)は秋の訪れが早く、夜になると涼しくなることと、なるべく早く蒔いて3月の第一回脱皮までに大きな苗を作っておきたいからです。播種用土は、発芽後すぐ移植するなら川砂単独でもよいのですが、私は秋は忙しいので12月になってから移植することにしていますので、それまでに少しでも大きくしたい為、肥料分を少し含んだ赤玉の小粒にピートモスを混ぜたものを使うことにしています。またこれらの播種用土は必ず熱気消毒をして腐敗菌の発生を防ぐ様にしております。播種容器は4号浅鉢を使い一鉢に100粒ほど蒔くのを目安にしています。メセン類は好日性種子ですから履土はしません。容器は腰水をし図の様にビニールシートと、遮光膜で覆うことにしています。腰水をした場合上面の覆いは必ずしも必要としませんが、9~10月の気温の高い時は遮光膜は是非必要です。高温による日焼けを防ぐ為です。
球型メセン実生(図)
 発芽は早ければ4~5日目から始まります。発芽日数は品種により、また種子の保存年数によりかなり差ある様です。また気温が高いと生えないが、気温が低くなると急に生えて来るものもありますから気長に管理する必要があります。
発芽後の苗はまだ弱いので、時として腐敗菌に犯されることがあります。用土は消毒してありますので原因は種子にあると思いますが、白い蜘蛛の巣を張った様な糸状菌が突如として現れ、幼苗は青くなって溶けて行きます。非常に繁殖力が強く一夜にして一鉢全滅ということもありますから毎朝見廻ってやることが必要です。でもこの細菌には特効薬があります。“ジマンダイセン”という黄色の粉です。農薬として使うとき薬害が出るとのことですが、サボテン類は全く害は出ません。適量(袋に表記)にうすめた液をかけておきますと、病害はピタリと止まります。サボテン類の実生には必携薬です。
発芽管理セット(加温温室内) メセン発芽直後
(2月10日播種。20~21日経過)
 苗は少ししっかりして来たらいつ移植してもよいのですが、私は他の作業が一段落した11月下旬頃から暇を見て少しずつ行うことにしています。植替え前鉢土を乾き気味にしておき、小型のピンセットで根本の土ごと掘り出す様にして、新しい植穴にさし込んで行きます。小さい苗を直接ピンセットで挟むと押しつぶしてしまう恐れがあるからです。苗の間隔は秋までの生育を見越して、リトープスやギバエウムなどは1.5cm位、小型のコノヒーツムは1cm位にしております。用土は標準用土を使いますが、苗がまだ小さいので化粧砂は使いません。日当りのよいフレームや窓際に置けば、真冬でも十分生育が可能ですから潅水も成苗より多くしますが、メセン栽培のコツは、鉢土を時々乾かしてやることです。こうすることにより、青苔の発生も防げます。常に湿っている状態はさけるべきです。ご参考までに私の実生室は温室内でビニールで囲い、最低10℃に加温し、真冬でも晴天の日中は30℃近くまで上がりますので、よく乾きます。したがって潅水も4~5日に一回位となり、成苗の10日に一回に比べて多くなっています。
実生管理中(devium発芽2年2ヶ月・開花親株)
 2月も下旬になると第一回の脱皮を始め、この頃より急激に生長がよくなり、脱皮の終った4月中旬には、リトープスは平均して1cm前後の苗になります。また3月に入ると気温も上がり光線も強くなりますので、通風、遮光をする様にしております。
コノヒーツムのペルシダム系や、オフタルモなどは休眠に入るのが早く、3月中旬になると皮をかぶったまま眠ってしまうので、遮光のためバーミキュライト(焼雲母)の粉をかぶせて潅水は秋まで中止します。リトープスやキバエウム類は5月一杯位まで生長する様ですので少量ずつ潅水し、腐敗対策として前記しましたジマンダイセン液を時々散布しております。
幻玉実生(播種2002年11月・発芽1年3ヶ月)
 6月に入るとリトープスも完全断水し、温室から取り出して通風のよい戸外栽培場に置き、70~80%の遮光率の高い黒の寒冷沙で遮光し休眠させます。
秋の目覚めはコノヒーツムのペルシダム系が一番早くて、当地では8月中旬から水をやらなくても花が上がって来ます。リトープスも夏型の曲玉系が6~7月に開花する例外は別として、8月下旬には動き出すので、この頃から秋の移植期に入ります。
こうしてリトープスやコノヒーツムの小型種は満2年で開花するものもあり、殆どの球型メセンが3年で成苗となります。

ツバサ(2001・03月播種・3年苗)